お釈迦様は29歳の時、王子の位を捨てて出家しました。
それから6年、激しい苦行に打ち込みましたが、どうしても悟りを開けません。
「身を苦しめるだけでは、だめなのだろうか。」
悩んだお釈迦様は、ふと子供の頃、木の下で瞑想したことを思い出しました。
「あの時は心身が安らいで、物事がはっきり見通せた。そうだ、瞑想こそ悟りへの道だ。」
お釈迦様は川で身を清めると、大きな木の下に座りました。
そして、「悟りを開くまでは、この席を立つまい。」と心に決めて瞑想に入りました。
すると、やがて心の中に故郷の兵士が現れ言いました。
「今、わが国は戦争に負け大変です。すぐにお帰り下さい。」
妻のヤショーダラ妃も現れ、涙ながらに言いました。
「あなた、早く帰ってきて。」
お釈迦様は心が乱れそうになるのをじっとこらえ、瞑想を続けました。
すると、兵士も妻も悪魔に姿を変えました。
みんな、悟りを邪魔する悪魔の誘惑だったのです。
「しぶとい奴、では総攻撃だ。」
無数の悪魔がいっせいに襲いかかりました。
牙をむき、刀を振りかざす。
来る日も来る日も、死闘は続きました。
それは、心の不安、恐怖、そして宇宙のおおもとである渇愛(かつあい)とのすさまじい
戦いでした。
やがて、7日目の夜明け、魔軍はついに降伏し、霧が晴れるように消え去りました。
戦いは終わりました。
お釈迦様の心は静かでした。
渇愛の激しい流れは、澄んだ大海となりました。
そこに、世の中のあらゆるものの姿が映し出されました。
生まれ変わり、死に変わる人の一生。
長い長い星の一生。
生きとし生けるものが織り成すやむことなき動き。
ありのままに手に取るように見えました。
そして目を開き、明けの明星の輝きを見た瞬間、お釈迦様はこの上ない悟りを得たのでした。
時に、お釈迦様35歳。
12月8日の暁(あかつき)のことでした。
この後、お釈迦様は悟りへの道を説いて、人々に生きる勇気を与えたのでした。
《-終-》