昔、インドのある国に とても美しい象がいました。
「こんなに素晴らしい象は、どこを探してもいないだろう。」
王様がいつも自慢しているように、その象は真っ白な体で
まるで満月のような優しい輝きを持っていました。
その優しい顔を見ていると、だれもが穏やかな気持ちになります。
あるお祭りの日のことです。
王様は飾り立てた白い象に乗って、町に出かけました。
町はお祭りを祝う人びとであふれています。
「なんて美しい象だろう。」
「歩きぶりも堂々としている。」
「まるで満月のように神々しい。」
人びとは口ぐちに白い象をほめたたえます。
それを聞いて王様は、ますます誇らしげに胸を張り、人びとを見おろしました。
ところが人びとがほめるのは象ばかり。
王様をほめる人はひとりもありません。
王様は、だんだん機嫌が悪くなりました。
「ふん。つまらん!」
とうとう王様はお城へ帰ってしまいました。
(なんと腹立たしい象だ。わしよりも目立つなんて!そうだ、あいつに恥をかかせてやれ!)
王様は象使いを呼びつけると、荒々しく聞きました。
「あの象はしっかりと、しこんであるのか?」
「はい。どんな命令にも従います。」
「それなら、山の険しい崖も降りられるだろうな。」
「もちろんです。」
「よし、明日山に連れていって試してやろう。」
次の日、王様は白い象に乗ると、象使いをつれて高い山へ出かけました。
険しい崖まで来ると、王様は象から降りて、象使いに命令しました。
「さぁ、ここで象を三本足で立たせてみよ。」
象使いは、白い象の背中に乗ると、首を優しくたたいて言いました。
「象よ。三本足で立っておくれ。」
象は三本足で見事に立ちました。
「次は、二本足で立たせてみよ!」
王様は悔しまぎれに言いました。
白い象は後ろの二本足だけですくっと立ちました。
「では、一本足で立たせるんだ!」
王様は荒々しく叫びました。(いくらなんでも一本足では無理だろう)
王様は象が崖から落ちる姿を思い描いて、にやっとしました。
ところが象は三本の足で地面を蹴ると、一本足で見事に崖の上に立ったのです。
王様はますます苛立って叫びました。
「では、足を使わずに、空中に立たせてみよ。」
「いくらなんでも…」
象使いはこの時になって初めて王様の恐ろしい考えに気がつきました。
「お前にこんな王様はふさわしくない。
もし空を歩く力がお前にあるのなら、このままわたしと一緒に、となりの国まで行こう。
そこには素晴らしい王様がいると聞いている。」
象使いは、そっと象の耳もとでささやきました。
パオーン。
白い象は鼻を突き上げ、ひと声するどい鳴き声をあげたかと思うと、空に向かってゆっくりと歩き始めました。
(なんということだ!象が空を歩くなんて…)
王様はあまりの不思議さに声も出ません。
象使いが空の上から言いました。
「王様、あなたのような愚かな人には、このような立派な象の値打ちがわからないでしょう。
もう二度とお会いすることもありません。さようなら。」
白い象と象使いはそのまま空を歩いて、となりの国のお城までやって来ました。
お城の庭では、家来たちが空を見上げ、口ぐちに叫んでいます。
「空に象がいるぞ。」
「なんて美しい象なんだ。」
騒ぎを聞いて、王様も庭に出て来ました。
王様は美しく輝く象に見とれ、思わず声をかけました。
「もし、おまえがわたしを訪ねてきたのならここへ降りてきておくれ。」
白い象はその声を聞くと静かに降りてきて、王様の前に立ちました。
象使いがこれまでのことを話しました。
「これはこれは、よく来てくれた。こんな素晴らしい象が訪ねてきてくれるなんて、わたしはなんと幸せものなんだろう。」
王様は喜んで象と象使いをお城の中に連れていき、お祝いの会を開きました。
こうして、白い象と象使いは、優しい王様にとても大事にされ、いつまでも幸せに暮らしたということです。
おわり