仏教説話

6月・大きな魚

『大きな魚』

ガンジス川の近くの町に、一人の金持ちが住んでいました。

その金持ちには二人の息子がありました。

 

ある日、この金持ちが急に死んでしまいました。

兄弟は相談して田舎にあるお父さんの土地を売ることにしました。それは金貨千枚にもなりました。

 

土地を売った帰り道、兄弟はガンジス川の渡し場で弁当を開きました。

「こうして腹いっぱい食べられるのはありがたいことだ。魚たちにも弁当を分けてあげよう。」

兄は川の神様に手を合わせました。それから魚たちに、食べ物を投げてやりました。

「ふん。」

弟は横目で兄をにらみ、つぶやきました。

「つまらない事をするもんだ。」

そのうち、お腹がいっぱいになった兄は、ぐっすり眠り込んでしまいました。

 

「ばかだなぁ。こんな大金を持っていながら油断するなんて。」

欲の深い弟はふと、千枚の金貨を独り占めしてやろうと思いました。

そこで同じような袋に石ころをぎっしり詰め込みました。

 

やがて渡し舟が来ました。

「さぁ、兄さん。寝ぼけていないで早く早く。」

弟は気づかれないように二つの袋を詰め込みました。一つの袋には金貨が、もう一つの袋には石が詰めてありました。弟は途中、石の袋を川に落とし、金貨の入った袋を自分の物にしようと思ったのです。

 

川の中ほどにさしかかった頃です。舟がぐらっと傾いたかと思うと、

「大変だ。お金の袋が落ちてしまった。」と、弟が叫びました。

弟の声に兄もあわてて川をのぞきこみました。

「お金で良かった。おまえが落ちたのなら大ごとだった。」

兄はほっと胸をなでおろしました。

 

ところが弟は大変なことに気がついて青くなりました。落としたのが石の袋ではなく、お金の入った袋だったからです。

 

ずっと様子を見ていた川の神様は、弟の悪だくみをちゃんと知っていました。

そして心の優しい兄のためにお金を守ってやろうと考えました。

そこで神様は大きな魚に金貨の袋を飲み込ませました。

 

それからしばらくたったある日、ガンジス川で一人の漁師が魚をとっていました。

ぐいっと手ごたえがあって、大きな魚がかかりました。

漁師は早速町へ売りに出かけました。

「金貨千枚の魚だよ。」

知らず知らず漁師は、そう叫びながら歩きました。

「世界一の魚だよ。誰か買わないか~。」

町の人は馬鹿にして笑いました。

 

金貨千枚の魚など聞いたこともありません。やがて漁師は兄弟の住む家にやってきました。

「魚はいらんかね。」

家の中では、やけをおこした弟が酔っぱらって寝ていました。

兄が出てきました。

「いくらだい?」

漁師は

「本当なら金貨千枚と言いたいところだか、あんたの顔を見ると、どういう訳か金をもらう気になれないや。

とっておきな。」

「まぁ、なんて大きな魚でしょう。」兄の妻が魚を見て言いました。

 

早速料理をすると、魚の腹の中からお金の入った袋が出てきました。

その時、どこからかおごそかな声が聞こえてきました。

「私はガンジス川の、川の神だ。」声は、言いました。

「よこしまな弟が、舟を揺さぶり、石の袋を投げ込もうとしたが、間違えさせたのはこの私だ。

ただ一人の兄さえも裏切る奴に、金貨を渡すわけにはいかん。」

「はい。でも…。」

と、兄は言いました。

「たとえ、よこしまな気持ちを起こそうと、私にとって弟は弟です。金貨は半分わけてやります。」

その言葉を聞いて弟は、はっと目が覚め、深く反省し、ひざまづいて言いました。

 

「兄さん、許してください。」

それから二人は助け合って仲良く暮らしました。

                                             終わり